PROJECT

04

Alaska

New Fishing Areas
Cultivation
Project

PROJECT
PROJECT

アラスカ
新規漁場開拓プロジェクト

ありえないはずの
新漁場で、
可能性という収穫を。

BACK GROUND

老若男女を問わず、そのおいしさで人気のカニ。味だけではなく、日本の食卓にとっては文化的な意味合いも強い。たとえば秋が深まった頃のカニ鍋は、四季の恵みを贅沢に感じさせてくれる。ところが今、日本は世界的なカニの争奪戦で劣勢に立たされている。経済大国である中国やアメリカでの消費が急拡大し、高騰する相場を追いきれていない。そんな時、「カニの新漁場発見」というレアなニュースが阪和興業に飛び込んできた。

KEIICHIRO OKAMOTO

KEIICHIRO
OKAMOTO

岡本 啓一郎
食品第三部
2012年入社/文学部 卒

STORY

01

ありえないはずの新漁場。

始まりは、シアトルにいる駐在員からの一報だった。「アラスカにカニの新しい漁場が見つかったらしい。仕入先から、興味はないかと打診があった」。カニを担当する岡本は驚いた。カニの漁場は、世界中ですでに発掘され尽くしたとも言われている。新たに見つかることなど、ほとんどありえなかった。だが、駐在員が口にした漁場の名は確かに聞いたことがなく、過去のデータにも見当たらない。

事実だとすれば大ニュースだった。世界的にカニの需要が高まり、国内市場でも奪い合いが起きている今、新しい供給ルートが生まれるのだから。懸念点といえば、どんなカニかわからないこと。大ズワイガニという種類は判明しているのだが、サイズや殻色、身の詰まり具合といった、商品価値に結びつく情報がない。

駐在員によると、仕入先もその点を不安がっているという話だった。実績ゼロの漁場だけに、いいカニが獲れる保証はなかった。それでも話を聞いてくれそうな相手として、阪和興業を頼ってきたのだ。

「とりあえず、やろうよ」。駐在員は声に力を込め、岡本にも異存はなかった。せっかく声をかけてくれた仕入先の期待に応えたい。そして何より、水産事業のリーディングカンパニーである阪和興業として、この話に賭けない手はない。

PROJECT
PROJECT
PROJECT

STORY

02

小さい大ズワイガニ。

「いよいよカニの水揚げがある」。待ちわびていた情報をついに耳にして、岡本は胸を高鳴らせてアラスカに飛んだ。極寒の1月。現場へ到着し、カニを一匹また一匹と確認するたびに、岡本の高揚感は気温と共に冷めていった。「小さいなあ……」。種類は大ズワイガニに違いないが、その名に反して小さい。味も物足りない。新漁場は山と海に挟まれた海域にあり、海水中の塩分濃度が低い。カニの場合、塩の薄さはそのまま味の薄さになってしまうのだ。

しかし、だからといって、諦めるつもりはなかった。生産体制を構築するため、すでに食品技術者にも同行してもらっている。「新規漁場の開拓」という意義の大きな挑戦を、ここまで来て手放すわけにはいかない。

岡本は食品技術者とともに、現地の加工スタッフにアドバイスを始めた。汚れの落とし方や並べ方まで、日本に出荷するカニとしてふさわしいレベルを教え込む。一方で、カニの売り方についても考えを巡らせた。初見では不安だらけだったカニだが、改めてチェックするとまったく使えないカニでもない。的確な使いどころを見定めて提案すれば、一定のお客様には受け入れてもらえるはず。そんな確信も徐々に生まれ、アラスカの漁場で一度は冷え切った気持ちが再び熱くなっていった。

PROJECT

STORY

03

心意気が、始まりをつくる。

日本へ戻った岡本は、いくつかの取引先にこのカニを売り込んだ。だが、色よい返事はなかなかもらえなかった。特に日本の消費者にとって、カニは自然の恵みが詰まった特別なご馳走だ。だからこそ品質のハードルは高く、実績のないカニでは乗り越えることが難しい。

それでも、手を挙げてくれる取引先がいた。カニの質がどうであれ、新しい取り組みのためなら一肌脱ごうという心意気だ。ビジネスとは、決して損得勘定ばかりではない。こんなふうに心意気がものをいう場面も珍しくない。もちろん、じっくりと築いてきた信頼関係がそのベースにはある。

ただ、アラスカから届いたカニの実物を持ち込んで梱包を解いた時、取引先は苦笑した。岡本も一目見てうなだれた。小さいことはわかっていたが、加工技術が未熟なせいもあってか汚れが残り、血液の酸化による黒変さえ見られる。つまり、商品価値がぐんと下がる。

しかし、話題はまもなく目の前のカニから、これから何を改善するべきかという前向きなテーマへと移った。そう、これはまだ始まりに過ぎない。マイナスの現状が把握できたことも含めて、未来につながる大きな収穫なのだ。両者の「心意気」は、ひとつになって走り始めていた。

PROJECT

STORY

04

攻めてこその防衛戦。

結果としてこの年、新漁場にまつわる取引は、利益だけを見れば「チャラ」で終わった。だがこれは、岡本にとっては織り込み済みともいえる結果だ。いきなり儲けなくてもいい。新漁場という可能性を手にしただけでも、上々の滑り出しといえる。

最大の成果といえば、水産事業のパイオニアとしての存在感を改めて示せたことだ。「阪和興業に聞けば、必ず答えがある」。そんな評価を買い先からも売り先からも得ることで、阪和興業は業界のトップクラスへと上り詰めてきた。どう転ぶかもわからない仕入先からの相談にまっすぐに向き合い、取引先に新しい可能性を示せた今回のプロジェクトは、その意味では大きな収穫だ。

「阪和興業とは、ディフェンディングチャンピオンである」。そんな自負を、岡本は先輩たちから感じ続けてきた。だがその地位は、攻め続けることでしか守れない。かつては「石橋を叩きすぎて叩き割る」というほど慎重だったという岡本も今や、大胆に攻めることを恐れない。

PROJECT